上場株式には値段があり、非上場株式にはない
トヨタやソニーのような上場会社の株式は、証券取引所で毎日売り買いされています。 今日いくらなのかは誰でも調べられます。
一方、世の中の会社の大半を占める中小企業の株式は、取引所で売り買いされていません。 こうした株式を税法では「取引相場のない株式」と呼びます。 一般には非上場株式、経営者の立場からは「自社株」と呼ばれるものです。
値段がない。ふだんは困りません。困るのは、相続や贈与が起きたときです。
なぜ値段を付けなければならないのか
相続税は、亡くなった方が持っていた財産の合計額に対してかかります。現金も土地も 株式も、いったん金額に直して足し合わせなければ、税額を計算できません。
現金なら額面どおり。上場株式なら市場価格。では、市場価格のない自社株はいくらか。 ここで「評価」という作業が必要になります。
納税者が自由に決められるわけではありません。各自が好きな金額を付けたら、税負担が バラバラになってしまいます。そこで国税庁は財産評価基本通達という ルールを定め、誰が計算しても同じ答えになるようにしています。
中小企業の事業承継で起きていること
ここで、多くの経営者を悩ませる問題が生じます。
長年利益を積み上げてきた会社ほど、自社株の評価額は高くなります。ところが、 その株式は売ることができません。買い手となる市場がないからです。
結果として、「相続財産の大半が自社株で、評価額は数億円。しかし現金化できないので 相続税を払う現金がない」という状況が起こります。これが中小企業の事業承継で 長く指摘されてきた問題です。
納税資金を確保するために自社株を会社に買い取らせる、事業承継税制の納税猶予を 使うといった対応が取られますが、いずれにせよ出発点は「自社株がいくらと 評価されるか」です。評価方法の見直しが注目されるのは、このためです。
いまの評価方法のしくみ
現行の評価方法は、大きく2つの分岐でできています。
分岐1:誰が取得したか
同じ株式でも、取得した人によって評価方法が変わります。
- 同族株主など、会社を支配する立場の人 … 原則的評価方式(会社の中身に基づいて評価する)
- それ以外の少数株主 … 配当還元方式(受け取る配当をもとに評価する。一般に評価額は低くなる)
支配株主にとって株式は「会社そのもの」ですが、少数株主にとっては「配当をもらう 権利」にすぎない。その実態の違いを反映した仕組みです。
分岐2:会社の規模
原則的評価方式の中でも、会社の規模によって使う方法が変わります。
- 類似業種比準方式 … 同じ業種の上場会社の配当・利益・純資産と比べて評価する方法。 規模の大きな会社で中心的に使われます。
- 純資産価額方式 … 会社の資産を相続税評価額に洗い替え、負債を差し引いて評価する方法。 規模の小さな会社で中心的に使われます。
さらに、資産を多く持つ会社や開業して間もない会社などは 「特定の評価会社」として、純資産価額方式で評価することとされています。
その仕組みが、いま見直されようとしている
国税庁の専門家会議では、この評価方法を大きく変える案が検討されています。 柱は次の2つです。
- 類似業種比準方式を廃止する — 理論的な根拠や実証的な裏付けがないため
- 会社の規模区分を廃止する — 規模が大きい会社ほど相対的に評価額が安くなり、不公平が生じているため
代わりに原則的評価方式となるのが残余利益方式です。 次のコラムで、その中身を見ていきます。
よくある質問
- 非上場株式の評価額は、自分で決めることはできませんか。
- 相続税・贈与税の申告では、財産評価基本通達に定める方法で評価します。納税者が 任意に金額を決めることはできません。ただし、通達による評価が著しく不適当と 認められる場合には、別の評価方法が用いられることがあります。
- 上場株式はどのように評価しますか。
- 課税時期の終値のほか、課税時期の属する月・その前月・前々月の各月の終値の平均額を 比べ、そのうち最も低い価額で評価します。市場価格があるため、非上場株式のような 複雑な計算は必要ありません。
- 自社株の評価は誰に頼めばよいですか。
- 相続税・贈与税の申告を伴う評価は、税理士に依頼するのが一般的です。会社の規模判定、 特定の評価会社に該当するかの判定、各資産の相続税評価額の算定など、判断を要する 論点が多岐にわたるためです。
- 見直し後は、自社株の評価額は上がりますか、下がりますか。
- 会社によって異なります。国税庁資料の試算では、規模の小さな会社では評価額が 下がる傾向、規模の大きな会社では上がる傾向が示されています。ただし評価額を 左右する還元率としんしゃく率がまだ決まっていないため、現時点で断定はできません。 詳しくは第3回で扱います。
出典: 国税庁「非上場株式の評価に関する専門家会議」第6回資料 『評価方法の見直しに当たり検討すべき主な論点』